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渚️×樹里亜️×大樹 ②

Author: 紅城真琴
last update Last Updated: 2025-05-12 18:37:32

日曜日の救急外来。

待合は診察を待つ患者さんやその家族であふれている。

「すみません、後どの位待ちますか?」

小さな子供を連れた女性が声をかけていて、受付職員がペコペコと頭を下げる。

「竹浦先生。お願いします」

「はい」

私にも処置室から声がかかった。

見ると、30代くらいのスーツ姿の男性が、ストレッチャーの上で苦しそうに胸を押さえている。

額には冷や汗で、苦渋の表情。

「とにかく痛いんです。何とかしてください」

患者の訴えでとりあえず痛み止めの注射をするが、原因は心臓かもしれない。

「心電図と胸のレントゲンをお願いします」

私は検査を急いだ。

痛み止めが効いたのか、しばらくして患者は落ち着きを取り戻した。

「ありがとうございます。楽になりました」

起き上がり、ストレッチャーを下りようとする男性。

「待ってください。まだ横になっていてください」

心電図からもレントゲンからも悪いものは見つかっていないが、あれだけの苦しみかたはきっと何かある。

「まだ原因が分かっていません。また痛みが出ないとは限りませんから、今日は経過観察のために入院してください」

「ええっ。それは、困ります。今日は大事な商談なんです。行かないわけにはいきません」

男性は勝手に立ち上がった。

「ダメですよ。戻ってください」

「とても大切な商談なんです。会社や社員の生活に関わるんです」

どうやら男性も必死だ。

しかし、私も医者として止めない訳にはいかない。

「もし途中で何かあっても責任がとれません」

「かまいません。自分の意志で行くんです。先生や病院にはご迷惑はかけませんから」

「いや、しかし・・・」

しばらく押し問答が続いたけれど私は押し切られ、男性は帰って行った。

昼休み、病棟から応援に降りて来た渚と救急に呼ばれていた大樹と私の3人で昼食をとった。

救急外来の職員休憩室だっ
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